知ってお得な年金情報

<2>米国外に滞在した場合の米国年金受給への影響

  正しい情報が伝わらず、米国年金受給者の方が困惑されているテーマである「米国外に滞在した場合の米国年金受給への影響」について説明いたします。

 実はこれまでに問い合わせが多い相談の一つが、日本帰国に際し米国年金が引き続き支給されるかどうかソーシャルセキュリティー(SS)オフィスに問い合わせたところ、次のような回答であったが本当かというものです。

 「米国を6ヶ月以上離れると米国籍者でない限り年金は支払われない」「日本でも継続して米国年金を受給できるが、6か月毎の米国入国が条件である」「米国年金は、米国籍があれば100%支給されるが、グリンカード保持者の場合は25%減額される」「米国籍者やグリンカード保持者以外には米国年金支給は支給されない」というものです。こういったSSオフィスの回答はすべて間違いです。

 最近の事例では、グリンカード保持者のAさんから、昨年ほぼ1年間日本に滞在しその後ハワイに戻るとソーシャルセキュリティー(SS)オフィスから“貴方は米国籍ではないので海外にいた期間は年金が受給できない。昨年受け取った年金の半分を返金せよ”というという手紙が届き当惑され相談がありました。AさんはSSオフィスで受給手続きをした際、米国を出国する時は書類で届けるように言われていたので日本に行く際出国届を提出しハワイに戻り帰国の報告をしたところその1週間後にその手紙が届いたと言うことでした。

 残念ながらこの様なSSオフィスのいい加減な対応は、全米に及んでいると思われ、しかも、かなり以前から現在まで繰り返されています。米国年金の受給資格を維持するため仕方なく米国籍を取得された方が少なからずいらっしゃいます。現在も年金のために米国籍を取得してしまったと残念がる方が引き続き発生しています。

 何故このようなことが生じてしまうのかについて考えて見ます。

 米国SSA(米国社会保障庁)は米国外滞在者に対する米国年金の支払いについて{EN-05-10137 - Your Payments While You are Outside the United States (June 2020) (ssa.gov)}次の様に説明しています。 

(1)米国籍者の場合、受給資格さえあれば米国外に滞在していても米国年金を支払います。(つまり原則、米国籍でないと年金は支給されないということです)但し、あなたが次の国の国民であるなら、米国外にどれだけ滞在しようと、受給資格さえあれば米国年金は引き続き支払われます。(例外国)日本、オーストリア、イスラエル、フランス、韓国等21カ国 EN-05-10137の5ページ3.を参照。

(2)あなたが米国籍者でなく、日本、フランス、メキシコ、ブラジル等77カ国の国民である場合、6か月以上米国外に滞在した場合、次の例外国を除き、米国年金の支払いは米国を離れた6か月後にストップします。(例外国)現在、米国が社会保障協定を締結している国 日本、オーストラリア、フランス、韓国等21カ国の居住者(Residents)である場合。EN-05-10137の8ページ6.と10、11ページに協定締結国のリストを参照。

 以上から、日本国籍者は日本に住んでいても米国年金の受給資格さえあれば、米国年金を受給できるということです。そして年金受給者の当惑の原因は、SSオフィスの担当者がこの例外規定を理解しないまま原則だけを相談者に伝えた結果ということです。

 しかしながら懸念されることは、その様なSSオフィスの窓口担当者の不勉強にとどまらず、SSAの本部の対応も100%正しくは行われていないということです。

 今回の相談者の方にはすぐクレーム(Form SSA-561-U2 REQUEST FOR RECONSIDERATIONを使用)を提出するようアドバイスをしました。

 老後の生活の基盤である年金の制度については、正しい理解のもとに対応してもらいたいものです。

<1> 日本の年金の課税

 日本の年金の申請中や受給中の方から、「日本の年金の課税は日本か米国か」「日本の年金は日本の銀行口座に振り込まれているので、米国では課税対象外と考えてよいか」「日本年金機構から、租税条約に関する届出書を提出するようにとの連絡が来ているがどうしたらよいか」というご質問を良くいただきます。

 米国に居住し日本の年金を受給している方の年金所得は、日米租税条約により居住国である米国で納付と定めれています。年金が日本の銀行口座に振り込まれていれも、米国に住んでいる限り米国で申告となります。一方、年金支給のたびに所得税が源泉されるためそのままでは二重課税となってしまいます。それを避けるために一定の手続きを踏めば、日本での源泉所得税が免除されます。

1. 源泉所得税が免除される為の手続き方法
 「税条約に関する届出書等」の書類を日本年金機構に提出します。具体的には① 税条約に関する届出書 ②特典条項に関する付表 ③居住者証明書(U.S. Residency Certification、IRS発行Form 6166)の3種類です。①②のFormは日本年金機構のHPから取得できます。居住者証明書はIRSのForm8802(IRSのHPから入手可能)に必要事項を記入して申請します。

2. 書類の提出時期
 これらの①~③の書類は、日本の年金を請求するとき、及びその後3年ごとに日本年金機構へ提出することになります。これらの書類を提出しない場合は、日本の税法に従って年金の支払いごとに所得税が源泉徴収されます。源泉徴収されても後日①~③の書類を提出すれば、その後の源泉徴収はなくなります。すでに徴収された所得税については、還付の手続きも可能です。
 
 しかしながら実は、米国にお住まいで日本の年金受給者の大半の方は、届出書の提出の必要ない方です。その理由は以下の通りです。

3.「税条約に関する届出書等」の提出が省略できる場合があります。
 年金額が源泉所得税を徴収されない金額の方については提出を省略することができます。提出が省略可能な源泉徴収されない年金額は(1)65歳未満の方・・年額60万円未満(2)65歳以上の方・・年額114万円未満(老齢厚生年金・老齢基礎年金合計)。年金を受給している方については、3年ごとに日本年金機構から書類提出のお知らせが届きますが、年金額がこの基準以下であれば、源泉徴収はされませんので、「税条約に関する届出書等」の提出の必要はありません。この省略によりForm6166の作成費用$85と手続きの手間が節約になります。

 65歳未満では提出不要の方でも、65歳になると老齢基礎年金が支給開始となりますので年金額が増えます。このために提出しなければ源泉徴収される場合もありますのでご注意ください。

 日本年金機構から書類の提出を求められた時は、ご自分の年齢と年金額を確認し、提出が必要かどうかを判断することが大切です。提出の省略に該当される場合は、「租税条約に関する申立書」を提出するか、“年金額が源泉徴収対象額以下なので、租税条約に関する届出書等は提出しません”と言う申立の手紙を添え、日本年金機構に返却してください。

 申請手続き中の方から、自分の年金額は少額なので「租税条約に関する届出書等」の提出は必要ないと思うが、年金事務所の担当から強く提出をもとめられ、提出しないと申請が進まず困惑しているとの相談が以前から少なからずあります。これは年金事務所の担当者の理解不足によるものです。その場合は「租税条約に関する申立書」を提出して下さい。

4.課税額の計算方法
 源泉課税は年金額が60万円か114万円を超える金額に対して20.42%(0.42%は復興特別所得税)が課税されます。例えば65歳以上で年金額が120万円の方の場合は120万円から114万円を差し引いた6万円に20.42%の税率を乗じた12,252円が年間の課税金額となります。実際は2か月に1回の支給の都度源泉されますので支給時の源泉税の計算は20万円(年金支給額)―19万円(控除額)=1万円 1万円×20.42%=2,042円となります。

5. その他 ①遺族年金・障害年金は非課税ですので、租税条約の手続きは不要です。なお米国の遺族年金は非課税扱いではありませんのでご注意下さい。②また、国家公務員・地方公務員の退職共済年金につきましては租税条約上の源泉徴収免除の取り扱いはありません。年金額が基準を上回れば源泉徴収されます。